はじめに
ブランドメッセージとトーン(トーンオブボイス)は、顧客との信頼関係をつくる“言葉の設計図”です。
発信がバラついて認知が伸びない、ブランドらしさが伝わらないと悩むマーケター・広報・企業担当者の方へ、本記事ではブランドメッセージの作り方とトーンの統一方法を、ストーリー設計と運用まで含めて解説します。
発信がブレると、ブランドは「便利だけど忘れられる」
SNS、Webサイト、広告、営業資料、サポート対応。企業が顧客と接する場面は増え続けています。一方で、発信のチャネルが増えるほど起こりやすいのが、言葉のブレです。担当者によって丁寧だったり砕けていたり、ある媒体では高級感を語り、別の媒体では値引きを訴求する。こうしたズレは、顧客にとって「結局どんなブランドなのか分からない」という不安につながります。
ブランドの印象は、商品やサービスだけで決まるものではありません。顧客は、企業が発する言葉のニュアンスから姿勢を読み取ります。だからこそ、言葉が統一されない状態は、品質そのものの評価とは別に“信頼の積み上げ”を阻害します。結果として、買ってはもらえても指名されにくい、思い出してもらえない、価格比較に巻き込まれるという状態に陥りがちです。
ブランドメッセージを「キャッチコピー」ではなく「約束」として定義する
ブランドメッセージは、目立つ言葉を考える作業ではありません。企業が顧客に対して何を約束し、どんな価値を提供し続けるのかを言語化するものです。ここを誤ると、メッセージが広告の一部として消費され、時間が経っても積み上がらない発信になります。
強いブランドメッセージには、必ず中身があります。ブランドの存在意義や背景、顧客の課題に対する立ち位置が明確で、言葉が短くても「このブランドは何者か」が伝わる。Appleの「Think Different」やNikeの「Just Do It」は、言葉そのものの巧さ以上に、企業が実際に提供する体験と整合している点が強いのです。
つまりブランドメッセージとは、顧客との関係の土台になる“共通理解”であり、社内にとっては意思決定の基準になります。どんな表現を使い、どんなサービスを優先し、どんな顧客体験を守るのか。その判断を揃えるために、ブランドメッセージは必要です。
トーンオブボイスは「話し方の統一」ではなく「人格の統一」
ブランドメッセージが「何を伝えるか」だとすれば、トーンオブボイスは「どう伝えるか」です。ただし、トーンは単なる丁寧語・カジュアル語の選択ではありません。顧客が受け取るのは文章の意味だけではなく、温度感や距離感、誠実さ、プロらしさといった“人格”です。
たとえば、親しみやすさを重視するブランドが、ある場面では砕けた言葉で語り、別の場面では硬い専門用語で突き放すように語ると、顧客は混乱します。逆に、信頼性を重視するブランドが、短期的なバズを狙って軽い言い回しに寄せると、ブランドの芯が揺らぎます。
トーン設計で重要なのは、ブランドを擬人化して考えることです。どんな人柄で、どんな態度で、どんな場面でも守る一線はどこか。ここまで決めておくと、媒体が変わっても“らしさ”を保ったまま表現の調整ができます。
共感を生むストーリーは「顧客の現実」から始める
ブランドメッセージとトーンが整っても、顧客が心を動かされるとは限りません。共感を生むためには、言葉を“物語”として届ける必要があります。ただし、物語はドラマチックである必要はありません。重要なのは、顧客の現実に接続しているかどうかです。
共感されるストーリーの核は、顧客が日常で感じている摩擦や迷いを正確に捉え、それに対してブランドがどんな立場で寄り添うかを示すことです。ブランドが主役ではなく、顧客が主役です。顧客が抱える課題を、過剰に煽るのでも、美談にするのでもなく、「それは自然な悩みだ」と理解を示しながら、解決の道筋を提示する。この姿勢が、信頼を生みます。
そして、ストーリーにおける言葉選びはトーンの延長線上にあります。どれだけ良いことを言っても、語り口がブランドらしくなければ、顧客は“作り物感”を感じます。共感とは、内容だけでなく話し方でも生まれるものです。
メッセージとトーンを統一するための意思決定
ブランドメッセージとトーンの統一とは、同じ文章をコピペすることではありません。どのチャネルでも同じ価値観が伝わる状態をつくることです。そのためには、社内で解釈が割れないレベルまで、言語化の粒度を上げる必要があります。
まず、ブランドメッセージは「何を約束するのか」と「何を約束しないのか」をセットで決めると強くなります。やらないことが決まると、言葉の方向性が定まり、発信がブレにくくなるからです。
次にトーンは、「どんな時も守る態度」と「場面に応じて変えてよい要素」を分けます。たとえば、SNSでは親しみやすく、契約書や重要なお知らせでは端正に。こうした調整は許されますが、誠実さや顧客への敬意といった根本は揺らがせない。この線引きを先に決めることが、運用の質を左右します。
運用のためのガイドラインは“例文”より“判断基準”が効く
トーンを統一するためにガイドラインを作る企業は増えていますが、ありがちな落とし穴があります。それは、言い回しの禁止リストやテンプレ例文だけで終わることです。例文は役に立ちますが、例文だけでは新しい状況に対応できず、結局担当者の感覚に戻ってしまいます。
運用で効くのは、「この表現はなぜOKで、なぜNGか」という判断基準です。ブランドが大切にする価値観と紐づいた理由があれば、担当者は状況に応じて言葉を選べます。ガイドラインは、言葉を縛るためではなく、言葉の迷いを減らすために存在します。
また、社内浸透にはトレーニングが必要です。トーンは知識ではなく習慣だからです。小さなレビュー会や、過去投稿の改善ワークなどを継続することで、言葉の品質は安定します。
成功事例に共通するのは「体験と言葉が一致している」こと
Appleが強いのは、シンプルな言葉を掲げるだけでなく、製品設計や店舗体験、サポートの姿勢まで同じ世界観で統一している点です。Nikeも同様で、挑戦を促すトーンを広告だけでなく、コミュニティやアスリート支援などの体験へ落とし込んでいます。スターバックスは、温かみのある言葉と、店舗での居心地やスタッフの対応が結びついているからこそ、安心感が積み上がります。
ここから分かるのは、ブランドメッセージとトーンは“言葉のテクニック”ではなく、“体験の設計”とセットだということです。顧客が受け取るのは、言葉と体験の総合点です。だからこそ、言葉だけを整えても成果は出ませんし、体験だけが良くても言葉が不一致だと誤解が生まれます。
言葉の設計がうまくいくと、ブランドは「説明しなくても伝わる」
ブランドメッセージとトーンが整い、運用が回り始めると、発信の迷いが減ります。投稿や広告の表現が揃い、チャネルが増えても“同じブランド”として認識されます。これが積み重なると、顧客はブランドを理解しやすくなり、指名で選ばれやすくなります。
さらに、社内の意思決定も早くなります。「この企画はブランドらしいか」という問いが機能し、施策の取捨選択がブレにくくなるからです。言葉の統一は、ブランドの統一でもあります。だからこそ、ブランドメッセージとトーンの設計は、長期的な信頼を生む投資になります。


